最終更新日:2020年05月07日
Mentor Capitalです。
銀行は資金調達を行う中小企業の経営者にとって企業運営の重要なパートナー的存在だと言えますが、銀行は取引企業の格付けを行い格付けに従って融資可否の検討を行っています。
格付けが基準を満たしている場合、融資の審査に通過しやすく低金利での事業融資が実現できますが、
そのためには、格付けがどのよう行われるのかを把握し、融資の実現が困難であることが懸念される場合は格付けを上げる手立てを打つ必要があります。
銀行融資の可能性を向上させるために格付けの上げ方を紹介します。
信用格付けとはどのようなものなのか
企業や国家の支払能力の有無を示す信用格付けは、格付機関が返済能力の程度をアルファベットや数字によって示し序列化したもので、
国家に対する信用格付けは最高ランクAAA、最低ランクをD(デフォルト)として示しています。
銀行融資の格付けとは?なぜ銀行は取引先にランクをつけるのか
銀行が融資審査の際に気を付ける事は「どうすれば融資による利息収益を最大化できるか?」ではなく、「どうすれば確実に融資を回収できるか?」です。
銀行はリターン予想ベースで融資の意思決定をするのではなく、貸し倒れリスク回避をベースに融資の意思決定を行います。
銀行が取引先の格付けを行うのにはいくつかの理由がありますが、銀行は貸付金利を高金利に設定するのが難しく、
低金利で取引する数多くの取引先の中から1件でも貸し倒れがでると銀行の利益に大きな影響がでるなどが理由として挙げられます。
低金利の政策が続けば銀行はどの規模の企業に融資しても利息収益が変わらないため、
貸し倒れリスクが低い信用できる企業には好条件で多額の融資を行い、貸し倒れリスクが高いと考えられる中小・零細企業への融資には担保設定や信用保証協会の保証を求めるなど消極的になり、
銀行の融資条件が二極化すると言われています。
銀行は取引先の信用状態によって融資条件を変更しますが、「格付け」は銀行が信用状態を測る際の指標に用いられます。
融資を受ける企業側にとっても格付けを上げることで銀行融資を受けやすくなるので自社の格付け評価を上げることは重要だと言えるでしょう。
銀行が格付けを行う仕組みについて
各銀行は企業の信用度を判定するためのスコアリングシートを保有し、スコアリングシートを元に企業の信用を定量化し、それによって企業の信用度を10~12段階に格付けします。
ランクの数や基準については銀行によって異なりますが、ランクをざっくりと分類すると、
・「正常先」 ・「要注意先」 ・「破綻懸念先」 ・「実質破綻先」 ・「破綻先」 の5種類に分けられます。
取引先との関係がこじれる事を懸念し銀行は顧客に格付けを伝えることはなく、格付けを伝えることを禁止している場合もありますが、
銀行の担当者との信頼関係が構築されていれば「真ん中位」や「真ん中より少し下」、「格付け上の方です」など漠然とした情報を得ることができるケースは存在します。
また業績が悪化し銀行の営業が減れば格付けが下がったと考えられますし、銀行が足繁く通うなら正常先の中でもかなり上位の格付けにいると推測できます。
融資の相談をしても担当が稟議を上げるのを有耶無耶にする場合は要注意先に分類されている可能性も考えられます。
債務者区分の詳細は?
既に紹介したように銀行は財務状況などを参考に融資先企業を5段階にランク付けしており、
業況が順調で財務状況も問題なく延滞履歴もない優良企業と評価されれば最も高ランクの正常先として扱われ信用格付けは1~6に該当します。
2段階目の要注意先は信用格付け7段階目に相当し、業況が思わしくなく財務状況に何らかの問題が存在すると判断される企業が該当します。
3段階目の破綻懸念先は過去に融資関連で長期間に亘る延滞履歴があり、破綻リスクが多少なりともある企業と判断され企業が該当します。
4段階目の実質破綻先は法的には破綻状態ではないものの、実質破綻同然の企業が該当します。
5段階目の破綻先は法律上も形式的にも破綻した企業が該当します。
銀行は各社のマニュアルに基づき企業の財務状況、融資の返済状況などに照らし、債務者区分などの格付けの査定を行います。
査定の内実は、損益計算書における経常利益の赤字の頻度及び期間に照らして、債務者区分を判断したものです。貸借対照表の純資産がマイナスになるに従い、債務者区分の評価は低下します。
融資を希望する企業の財務状況が良好で損益計算書の経常利益が黒字であれば格付けが上がりますが、経常利益が赤字で返済状況も芳しくない企業は、債務者区分で低ランクに分類されます。
信用格付けの決定には企業の財務状況以外にも「経営者の資質」や「企業がどの程度技術力を有するのか」などが影響します。信用格付も高いほど融資が可決される可能性が向上します。
正常先に区分された場合でも、1段階目と6段階目では企業に対する融資の可能性は大きく乖離すると言わざるを得ません。
格付けが低い場合は、資金繰りを改め赤字状態からの脱却を目指すなどの格付け向上計画をたてる必要があります。
格付けが向上すると銀行融資を受けやすくなる
格付け基準の債務者区分が正常先であれば、銀行融資が滞りなく可決されるなど、格付けが高くなれば容易に銀行融資を受けることが可能となります。
債務者区分が高いほど銀行が融資を行う可能性が強まりますが、要注意先より下位の基準に格付けされれば、新規借入は相当困難となるとも考えられます。
要注意先は「その他要注意先」と「要管理先」とに分類され、融資の可能性の分水嶺となります。
債務者区分がその他要注意先の場合は、融資に至る可能性があるといえます。
しかし融資の可能性があると言っても格付けが下位にランクされるほど、銀行は焦げ付きを懸念し迅速な回収を行おうとしますので、
要管理先以下のランクであれば、新規事業融資や追加融資が行われることはないと言えるでしょう。
格付けを上げる方法とは?
格付けを上げるためには融資が受けやすくなる決算書を作成することが必要となりますが、銀行の格付け判断は決算書の内容が重視されるため巧みな話術を駆使しても通用しません。
決算書に記載された数値で企業の格付けが行われますが、一度格付けが行われると次期の決算書が作成される1年後まで格付けは変更されません。
格付けが低く認定されると向こう1年間の間は事業資金の調達に苦労することが予想されます。
しかし決算書は黒字であれば良いというものでもなく、格付けを上げるためには総合的な対策が必要となります。
決算書全体の均衡が取れていることや売掛金や在庫状況、負債額、自己資本残高などが格付けに影響を及ぼします。
また誤った勘定科目の処理がある場合、税務処理上は正しくとも格付けにはマイナスに働く場合もあります。
例えば処理が不可能な経費を貸付金や仮払金として処理することは、銀行側に悪印象を与えかねません。
さらに銀行員は会計に関してもある程度精通しているため、減価償却の計上を怠り利益調整を行っても、
見抜かれるケースが少なくなく適正な会計を怠っている決算書として結果的に格付けを下げることに繋がりかねません。
未収入金や現金残高などの不自然な点は解消しておく
銀行側の書類検証能力は相当高いため、銀行側に提出する書類作成にも高い精度が求められます。
外部からは判然としない未収入金や不自然な現金残高の解消も検討すべきだと言えます。
未収入金が生じる頻度が高ければ、暫定的に売掛金として処理する必要があります。
不自然な現金残高の存在は銀行側の心象が悪くなるため、誤記や不適切な数値は改めておくべきでしょう。
余剰な在庫が過大に存在している
経営を悪化させる過大な在庫は現金化を行い計上し、仕入れも改善点があれば改めるなど在庫管理を徹底する必要があります。
棚卸資産評価に係る損失は、経費に計上することで節税対策になり得ます。
また、有形固定資産は廃棄することなく損失として計上することで、節税対策になり得ます。
すぐに現金化できない固定資産よりも流動資産が多い方が、すぐに返さなければならない短期借入金よりも返済期限が先の長期借入金が多い方が評価される傾向にあります。
ゴルフをしないのに保有しているゴルフ会員権や使う予定の無い土地の様な遊休資産は売却することをおすすめします。
未回収の売掛金が存在していないか
未回収売掛金などの存在は売上と仕入れの均衡が取れていないことを意味します。
通常、売掛金が生じた段階から回収までに至る期間が短期間であるほど、資金繰りの状況は良好とされているので、買掛金の回転期間を改善するのも効果的です。
具体的には売掛金残高の一覧表などを作成することで取引先との回収状況の把握に務めることが有効です。
一覧表で支払いを遅延する取引先を確認し売掛金回収を行うことが望ましいです。
売掛金は回収するまで結果が分かりませんが銀行は売掛金残高に対して、何ら斟酌してくれません。
未回収売掛金は軽視すべきものではなく、管理を徹底する必要性があると言えるでしょう。
受取手形や売掛金などの債権を現金化することでキャッシュフローは改善されるので、取引先と支払いサイトの短縮を相談することで貸借対照表の見栄えを良くすることも可能です。
決算書に事業報告書を添付する
企業の経営状況が一目瞭然となる事業報告書は、株主や取引先に対して健全な企業運営をアピールできます。
事業報告書の簡易的に事業計画進捗報告書がありますが、銀行との信頼関係を築き上げるためには、決算書に事業報告書を添付して提出するのは非常に効果的だと言えます。
事業計画書によって企業の経営実態や経営戦略が明確となり銀行側が計画的な経営が可能であると評価すれば、格付けを上げるプラス要因となります。
決算期日までに役員借入金を解消する
格付けを上げるためには決算期日までに、役員借入金を解消することも必要です。
役員借入金は役員からの借入金を管理の目的で銀行融資などの借入金と区別し、別項目として設けられたものを指します。
節税目的で役員報酬を低く抑えることは中小企業によく見られますが、経営状況に悪影響を及ぼしかねません。
役員貸付金は貸借対照表へ計上されるため役員貸付金が何期にも及べば返済が困難であるとみなされ銀行からの心象も悪くなり融資の実現が難しくなります。
このため役員報酬の形で返済する、貸し倒れの処理をするなどの方法で役員借入金は決算期日までに解消しておきましょう。
財務状況のこまめな報告を行う
融資を受けている期間中は四半期ごと貸借対照表や損益計算書などを用いて財務状況の報告を行うことをおすすめします。
こまめな報告を行うことで銀行に誠実な企業であるとアピールでき、格付け向上に効果的に働きます。
銀行側の心象を得る目的で財務状況の報告を行うのですから、貸付の対象企業の資金繰りに常に注目している銀行に対し、
資金繰りに関する報告は必要であり効果的でもあることから、損益計算書や貸借対照表だけではなく資金繰り実績の報告も行うべきでしょう。
収益性の改善を行う
収益性を高めるためには資本に対し効率的に利益を生み出せるシステムの構築を目指す必要があります。
要するに粗利率の高い商売を行うということなのですがコントロールが難しいのも事実です。
例えば同じ原価の商品をより高単価で販売すれば粗利率は高まりますが、販売個数の減少も考えられるのでトータルの経常利益の総額が減少することも予想されます。
収益性の改善については売上を下げない程度に段階的に高収益体質を作り出すようビジネスモデルのブラッシュアップを行う必要があると言えるでしょう。
最後に
債権回収リスクの低い格付けの高い企業へ融資が積極的に行われ、債権回収リスクの高い格付けの低い企業への融資は消極的であることから銀行の取引先の二極化が進むと言われています。
自社の格付けが低く融資を実現し難いと感じている場合は、格付け向上の実践を積極的に行うことをおすすめします。
格付けは資金繰りの改善と密接な関連性をもつことから、格付けが上がるに従い資金繰りも改善されることが期待できます。
格付け向上に成功すれば融資の適否のみならず、より低金利な借入を実現できることでしょう。
いかがでしたでしょうか?
何か不明な点等が有れば、お気軽にメンターキャピタルまでお問合せ下さい!!