資金繰り償還とは? 利益償還との違いや続けるリスクを解説
最終更新日:2024年12月02日
融資を受けると毎月の支払いが必要になり、支払いのための原資をどこから用意するかは企業を運営していく上で重視すべきポイントです。利益から支払い原資を捻出するのが難しい場合、資金繰り償還を行うのも一つの方法ですが、資金繰り償還にはさまざまなリスクもあります。
本記事では資金繰り償還とはどのようなものか解説するとともに、資金繰り償還の方法やルールについて詳しく紹介します。またもう一つの支払い方法である利益償還との違いや、資金繰り償還を繰り返すリスクも解説するので、資金繰りが悪化し繰り越し償還を続けるべきか悩んでいる方はぜひ参考にしてください。
目次
資金繰り償還とは?
償還とは、融資を受けた金額を融資先に支払うことを指します。企業が事業拡大や、設備投資、運転資金などのために融資を受けることは一般的です。そして融資の支払いは基本的に利益の中から行います。
とはいえ売上不振で赤字経営状態になると、利益から支払い原資を捻出するのは難しくなります。そうした場合に検討されるのが、利益以外の運転資金から支払い原資を捻出する「資金繰り償還」です。
ただし資金繰り償還は、融資に対する支払いを滞らせないための一時しのぎの側面が強く、継続して利用する支払い方法として有効ではありません。安定した経営をいち早く取り戻すためにも、資金繰り償還を行う場合はどこから支払い原資を捻出するか慎重に検討する必要があります。
資金繰り償還の方法
資金繰り償還では、以下のいずれかが支払い原資の捻出方法として考えられます。
・手元の資金を利用する
・新たな融資を受ける
・売掛債権を現金化する
手元にある現預金やすぐに売却可能な有価証券などを使えば、比較的簡単に支払い原資を用意できるでしょう。別の金融機関などから新たに融資を受ける方法もあります。いずれも資金繰りが良好な場合には有効な方法ですが、経営状態が悪化しているタイミングでは慎重に検討しなければいけません。
売掛債権の現金化とは、ファクタリングと呼ばれる資金調達方法のことです。ファクタリングでは売掛債権を売却して資金化し、売上が取引先から振り込まれたタイミングで手数料とともにファクタリング会社に支払います。手元資金を減らす必要がなく、融資のように審査に長期間かかることもないため、すぐに現金が必要な場合には有効な方法といえるでしょう。
利益償還との違い
償還方法には資金繰り償還の他に「利益償還」があります。利益償還はその名の通り、利益の中から融資の支払いに充てる償還方法です。資金繰り償還は利益以外から支払い原資を調達するため、それぞれ支払いに充てるお金の出所が異なる償還方法だと理解しておくとよいでしょう。
企業はサービスや商品を販売するなどして、売上を得るのが基本です。その中から人件費や経費、仕入れ代金などを差し引き、残ったものが事業の利益となります。利益は企業の経営状況を推し測る指標でもあり、「安定した利益がある」「大きな利益を獲得している」となれば経営状況は良好と判断できます。つまり利益償還を行っている企業は健全な状態といえるでしょう。
借入金の用途により償還のルールが異なる
どのような用途で融資を受けるかによって償還のルールが異なります。ここでは運転資金として融資を受けた場合と、設備投資として融資を受けた場合それぞれの償還ルールを解説します。
運転資金の場合
運転資金とは人件費や家賃、水道光熱費、広告費、仕入れなど、事業運営に必要な資金のことです。つまり事業を行う上で日常的に必要な、流動性の高い資金を指します。
運転資金の融資を受けた際の償還ルールとして、日本政策金融公庫が定めている例を紹介します。
貸付の種類 | 運転資金返済期間 |
新規開業資金(中小企業経営力強化関連)(女性、若者/シニア起業家支援関連)(再挑戦支援関連) | 10年以内<うち据置期間5年以内> |
一般貸付 | 5年以内(特に必要な場合7年以内)<うち据置期間1年以内> |
運転資金の融資は、利益償還でも資金繰り償還でも問題ありません。そもそも運転資金の融資は創業や事業拡大の際だけでなく、「大口の受注が決まりそうだがその分増える仕入れ費用が足りない」「売掛金の入金までに資金が不足する」といった喫緊の問題が発生した際にも行うのが通常だからです。
売掛金の回収で支払いができる短期融資の場合も多いため、資金繰り償還でも問題ないとしているといえます。創業したてなど、すぐに安定した利益を上げられるとは限らないケースを鑑み、利息のみの支払いで元金の返済が猶予される「据置期間」の設定も可能です。
※参考:日本政策金融公庫.「一般貸付」
※参考:日本政策金融公庫.「新規開業資金(中小企業経営力強化関連)」
※参考:日本政策金融公庫.「新規開業資金(女性、若者/シニア起業家支援関連)」
※参考:日本政策金融公庫.「新規開業資金(再挑戦支援関連)」
設備資金の場合
設備資金とは事業に必要な設備の購入、更新などのために充当する資金のことです。オフィスや店舗などの購入費用、家賃や敷金、内装費、製造機械、ITシステムといったさまざまな設備が含まれます。創業時をはじめ事業拡大の際にも設備資金が必要になることはよくあります。
例として日本政策金融公庫が定めている、設備資金の対する融資の支払期間は以下の通りです。
貸付の種類 | 設備資金返済期間 |
新規開業資金(中小企業経営力強化関連)(女性、若者/シニア起業家支援関連)(再挑戦支援関連) | 20年以内<うち据置期間5年以内> |
一般貸付 | 10年以内<うち据置期間2年以内> |
設備は事業の基盤となる重要なものであり長期に渡って使用するもののため、運転資金と比べて長めの償還期間が設定されています。また設備資金は一般的に、利益償還での支払いを求められます。
これは融資によって導入する設備が利益を生むために必要なものである一方、利益につながる見込みもなく導入する設備には融資できないからです。融資する側は「安定した利益が見込める=利益償還できるはず」と考えます。つまり利益償還という条件が、設備資金融資の必要性、あるいは可否の判断基準になっているのです。
なお設備資金も「据置期間」の設定が可能です。
※参考:日本政策金融公庫.「一般貸付」
※参考:日本政策金融公庫.「新規開業資金(中小企業経営力強化関連)」
※参考:日本政策金融公庫.「新規開業資金(女性、若者/シニア起業家支援関連)」
※参考:日本政策金融公庫.「新規開業資金(再挑戦支援関連)」
資金繰り償還を続けるリスク
資金繰り償還は運転資金の融資に有効活用できる償還方法ですが、いくつか押さえておくべき重要なリスクもあります。
会社の資金が減る
会社が持つ現金資金や現金化が可能な有価証券などから償還を行えば、事業に使える資金が減ることになります。事業に使える資金が減れば、仕入れや固定費の支払いができなくなるかもしれません。いわゆる「資金ショート」と呼ばれる状態になり、最終的に事業そのものが立ちゆかなくなる可能性も否定できません。
借入金が増加する
資金繰り償還を行うために別の金融機関などから借り入れて充当した場合、融資総額が増加するリスクがあります。融資の返済には利息が付きます。利息はいわば余分な出費で、その場は支払いできても、また新たな融資先への支払いに困ることになりかねません。融資を受けている間にうまく経営状況を改善できれば問題ありませんが、難しい場合は自転車操業になってしまうでしょう。そうなれば融資審査に影響し「少額の融資しか受けられない」「そもそも新たな融資を受けられない」といった状況に陥る可能性もあります。
資金繰り償還を続けないためのポイント
資金繰り償還には経営状況を悪化させるリスクがあるため、長く続けず早く状況を改善させることが欠かせません。ここでは資金繰りを改善させる5つのポイントを紹介します。
据置期間の設定を行う
日本政策金融公庫をはじめ、金融機関などから融資を受けた場合、支払いに対する負担を軽減するために「据置期間」を設定できます。据置期間中は元本の支払いが猶予され、利息のみの支払いで済みます。そのため無理に資金繰り償還をする必要もなく、資金繰りの安定化が図りやすくなる仕組みです。特に新規事業を起こしたばかりの時期や、経営の立て直しの時期では据置期間をうまく設定することが重要になってきます。
ただしこれには返済実績を作れないデメリットもあります。元本に対する支払いがなければ、実績は発生しません。したがって、もし短期間で追加融資を受ける予定がある場合は、審査に影響するため据置期間は短めに設定する方がよいでしょう。
本業とそれ以外に分けて収支を確認する
資金繰り償還を続けないためには、そもそもの資金繰りを見直す必要があります。その場しのぎの資金繰りにならないよう、本業の収支である「経常収支」と本業以外の収支である「経常外収支」をあらためて把握しましょう。
【経常収支】
経常収支の「収入」には、普段の営業活動による商品やサービスを販売して得た売上が含まれます。また「支出」には仕入れ代や給料、金利などが該当します。
ここで注意したいのが売上、つまり売掛金です。売掛金は回収まで時間がかかることが通常なため、回収より前に支払いが生じることもあるでしょう。支払いサイトが長い取引の場合は特に注意しておかなければ、支払いに必要な資金が不足する原因になります。売上があり利益が出ているものの、支払いに必要な資金不足による「黒字倒産」に陥りやすいのもこの状態です。
売掛金の回収と仕入れなどの支払いのタイミングを把握し、さらにオフィスの家賃や光熱費など無駄なものがないかを見直すことも、資金繰り改善に役立ちます。
【経常外収支】
経常外収支の「収入」には、会社の資産を売却した場合の収入や、補助金収入、保険などの解約収入などが含まれます。また「支出」に当てはまるのは設備の購入、更新にかかる費用や有価証券の購入などです。
事業内容によっては設備投資に大きく資金が必要になることもあるため、融資によって補うことも多い資金です。一方有価証券の売却などで現金化しやすいため、計画的に積み立て、管理することが重要になります。資金繰り償還を避けるためには、この経常外収支をよく把握し、年間の資金繰り計画を立てることが欠かせません。
財務収支をチェックする
財務収支は金融機関の借入金の収支を示すものです。財務収支の収入は借入金のことで支出は借入金に対する支払いのことです。財務収支がプラスの場合、借入金が増えていることになります。つまり財務収支が大きくプラスになってくると、借入金に対する毎月の支払い額が大きく膨れ上がっていると想像できるため、経営上危険な状態と判断できます。借入金に対する支払い額が経営を圧迫すれば、資金繰り償還を繰り返す理由にもつながるため、財務収支状況を適切に把握し、管理することが必要です。
資金繰り表を作り先の出入金予定を把握する
経常収支、経常外収支、財務収支は「資金繰り表」で表せます。予算を定め、実績という形でそれぞれの収支を記入しましょう。実績は収入-支出で求められる値を入力するため、一目でプラス状態かマイナス状態にあるか分かるのが資金繰り表の特徴です。
資金繰り表では当月の収支状況だけでなく、将来のキャッシュフローを適切に管理するため予測値の作成も行います。販売・人員計画や、設備投資予算、または過去実績などから予測値を設定することで、計画に無理や不足がないかなど先の予定を把握しやすくなります。資金繰り償還を繰り返す流れを早めに断ち切り、資金繰りを安定させるためにも、資金繰り表における予測値の設定は重要なポイントです。
強引に繰り上げて支払いをしない
繰り返す資金繰り償還を止めるために、繰り上げ返済を行う方法もあります。繰り上げ返済とは元金の一部、または全部を前倒して支払うことです。前倒しで支払えば、支払った分の元金に充当する利息を節約できるため、資金繰りを改善するためには一見有効な方法に見えます。
しかし手元資金などから無理に繰り上げて支払いをすると、もし大きな受注があって原料の仕入れをしたい、人員を確保したいと考えても資金が足らず対応できなくなるかもしれません。余剰資金が少ない状態で無理に繰り上げて支払うことは、チャンスを逃し、さらなる資金繰り悪化につながる可能性がある点は理解しておく必要があります。
まとめ
資金繰り償還は、運転資金として受けた融資に適用できる支払い方法です。短期間の借り入れなど、計画的に資金繰り償還を活用できる場合は問題ありません。しかし手元資金が少ないなど、資金繰りが悪化している状態で利用すると経営悪化につながる恐れもあります。
自社の経常収支、経常外収支、財務収支をよく確認し、中長期的な資金繰りに悪影響がないかよく確認しながら、適切な支払い方法を検討しましょう。
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