手形割引とは? 早期に現金化するメリット・デメリットを解説
最終更新日:2025年12月26日
企業が使える資金調達の手法に、割引手形があります。割引手形は支払期日前の手形を銀行などに買い取ってもらう仕組みで、早期に現金化できる、融資と比べて審査に通りやすいなどのメリットがあります。一方で不渡りが起きた際の買い戻しリスクなどもあるため、メリットやデメリットを把握した上で利用しましょう。
そこで本記事では、割引手形の仕組みやメリット・デメリット、利用する際の主な流れなどを分かりやすく解説します。
<この記事で分かること>
・割引手形のメリットとデメリット
・割引手形を利用する際の主な流れ
・割引手形の仕訳例
・割引手形とファクタリングの違い
Table of Contents
割引手形とは?
割引手形とは、支払期日前の約束手形を金融機関に買い取ってもらう仕組み、もしくはその手形です。通常、手形は支払期日まで待たなければ現金化できませんが、割引手形の仕組みを使うと早期に現金が受け取れます。
手数料を支払う必要はありますが、急な資金不足に陥ったときの資金調達手段として有用です。
そもそも約束手形とは?
約束手形は、2者間取引で使われる決済手段の一つです。振出人(代金を支払う側)が受取人(支払いを受ける側)に対して、手形を振り出します。受取人は支払期日に、金融機関にその手形を持ち込んで現金化するという仕組みです。手形取引にはこの他に3者間取引で使われる為替手形もありますが、主流なのは約束手形です。
約束手形の仕組みを使えば、振出人は支払いを延期できます。手元に現金がなくても、将来入金される予定がある場合には有効な決済手段です。ただし、支払期日までに現金が用意できなかった場合は不渡りとなり、振出人は銀行から融資を受けるのが難しくなったり、取引先からの信頼が低下したりします。最悪の場合、全ての金融機関との取引ができなくなり、事実上の倒産に追い込まれることもあるため、手形の振り出しは慎重に行いましょう。
裏書手形との違い
裏書手形とは、裏書譲渡された手形です。裏書譲渡とは、他者から受け取った手形(支払いを受ける権利)を第三者に譲渡して支払いに充てることです。
例えば、自社が売掛先であるA社から受け取った手形を使って仕入れ先のB社に裏書譲渡すれば、手元に現金がなくても仕入れができます。手形を譲渡されたB社は、支払期日になったら金融機関に手形を持ち込めば現金化できます。手続きは簡単で、手形の裏面に譲渡相手の名称などの必要事項を記載して渡すだけです。
裏書譲渡は支払期日前なら、何回でも行えます。例えば、前述のB社がさらにC社に手形を裏書譲渡しても問題ありません。さらにC社がD社に裏書譲渡することも可能です。ただし、A社が支払えなくなった場合は、不渡りとなります。この場合、最終的に手形を持っている人は、手形を裏書きした全ての人に対して支払いを求められます。手形の裏書きは、振出人の支払能力を検証した上で行いましょう。
割引手形のメリット
割引手形には、さまざまなメリットがあります。詳細について見ていきましょう。
早期に現金化が可能
割引手形の大きなメリットとして、売掛債権を早期に現金化できることが挙げられます。通常、手形を現金化するには支払期日まで待つ必要があります。締め日から支払期日までの長さを支払いサイトといいますが、業種によっては支払いサイトが3~4カ月になることも珍しくありません。
売掛債権は通常、支払期日になるまで現金化できませんが、その間も運転資金はかかります。もし途中で資金が不足してしまえば、倒産しかねません。
一方で、割引手形を利用すればすぐに現金を調達できます。運転資金が不足しそうなときや、急な出費が発生した際に利用すれば、運転資金の枯渇リスクを軽減可能です。
融資と比べて審査に通過しやすい
割引手形以外に資金不足を解消する手段として、融資があります。融資とは銀行や信用金庫、あるいは政府系金融機関からお金を借りることです。融資にもメリットはありますが、一方で審査が厳しいというデメリットもあります。借入先によって審査難易度は異なりますが、特に銀行は審査のハードルが高く、たとえ大手企業であっても利益が出る見通しがなければ断られる可能性があります。
割引手形にも審査はありますが、こちらは比較的易しめです。割引手形は支払いを受ける権利を譲渡するシステムなので、受取人よりも振出人の支払能力が重視されます。受取人が中小企業や個人事業主であっても、手形の振出人の信用力が高ければ、審査に通る可能性は高いです。
比較的手数料が安い
割引手形の手数料は、他の資金調達手段と比べて低い傾向にあります。割引手形の手数料は、以下の計算式で算出可能です。
・手数料 = 額面金額 × 手形割引率 × 支払いまでの日数 ÷ 365日 + 取立手数料
手形割引率は金融機関ごとに決められており、一般的に銀行は低く、信用金庫は銀行より少し高く、手形割引専門業者はさらに高く設定されます。
例えば、額面金額100万円の手形を手形割引率5%、支払いまでの日数30日、取立手数料1,000円で買い取ってもらう場合、手数料は以下のようになります。
・手数料 = 100万円 × 5% × 30日 ÷ 365日 + 1,000円 = 約5,109円
割引手形のデメリット・注意点
割引手形には多くのメリットがある一方で、デメリットや注意点もあります。利用する前に把握しておきましょう。
不渡りが起きた際に買い戻しの必要がある
割引手形のデメリットの一つは、不渡りのリスクがあることです。不渡りとは、何らかの事情で、受け取った手形が支払期日に現金化できなくなることです。もしも割引手形で譲渡した手形が不渡りとなった場合、手形を買い取った金融機関は利用者に手形の買い戻しを求められます。
割引手形で得た資金をすでに使ってしまっていた場合、買い戻しができなくなるかもしれません。その場合は銀行から融資を受けて、分割で支払うなどの交渉をすることになるでしょう。
金額の分割はできない
割引手形では、原則として分割譲渡ができません。例えば、額面金額が300万円の約束手形を保有していて、必要な現金が50万円だけというケースを考えましょう。割引手形の場合、50万円分だけ譲渡して、手形として残りの250万円を持ち続けることはできません。300万円分まるごと譲渡するか、一切譲渡しないかの2択です。
手数料分が引かれる
割引手形の手数料率は低めですが、ゼロではありません。手形の支払期日まで待てば満額もらえることには変わりないため、安易な割引手形の利用は避けましょう。
なお、割引手形で譲渡した手形は原則買い戻しできません。割引手形後に資金に余裕ができたので「手数料を節約するために買い戻しをしたい」と望んでも、通常は金融機関に断られることを認識しておきましょう。
割引手形を利用する際の主な流れ
ここからは、割引手形を利用する際の主な流れをご紹介します。
金融機関への申し込み
まずは手形を金融機関に持ち込み、割引を依頼してください。割引手形は銀行や信用金庫、割引手形専門業者などで申し込めます。
なお、申し込みの際には手形の他に登記簿謄本や決算書、預金通帳といった書類の提出が求められることがあります。細かいルールは金融機関ごとに異なるため、事前に確認しておきましょう。
振出人の審査
割引手形の審査では、先述した通り、利用者の信用力よりも振出人の信用力が問われる傾向にあります。金融機関はリサーチ会社が公開している資料や株式上場の有無などから、振出人の信用力を調査します。
割引手形専門業者の場合は、振出人の信用力が高ければ審査に通過できるケースが多いです。一方、審査が厳しい傾向のある銀行では、不渡りが起きた際の買い戻しも見据えて申し込み者の審査も併せて行うことが多いです。
申し込み者の審査
申し込み者の審査では、主に業績や担保、借り入れの有無などがチェックされます。スムーズに資金を手に入れるためにも、事前に資料をそろえておきましょう。
なお、ある程度信用がある企業では、割引を依頼した銀行から極度枠が設けられることもあります。極度枠が設けられた場合、その範囲の割引手形の手続きが簡略化されます。例えば極度枠が1,000万円の場合、持ち込んだ手形の残高が1,000万円以内なら、簡単な手続きだけで割引手形が利用できる可能性があるのです。
契約締結・現金化
審査に通過できたら、契約を締結し、現金を受け取ります。受け取れる額は手形の額面金額から手数料を引いた額です。この一連の流れにより、手形を支払期日前に現金化できます。
なお割引手形の利用後に支払期日が訪れたら、振出人は金融機関に対して支払いを行います。その際に支払いが実行されなかった場合は、不渡りとなるのでご注意ください。不渡りとなると、割引手形の利用者は買い戻しをしなければなりません。
割引手形が不渡りになった際の対処方法
割引手形を利用したものの、その後不渡りが発生してしまった場合の対処法をご紹介します。
買い戻し
割引手形が不渡りになってしまった場合は、金融機関から手形を買い戻しましょう。手元の資金に余裕があれば問題ありませんが、すぐに買い戻しができないケースもあります。
金融機関側もそのことは理解しているので「金融機関が買い戻しのための資金を融資し、利用者が少しずつ返していく」という形になることが多いです。これは赤字を補填するための融資であり、完済後には同じ金融機関で割引手形を利用するのは難しくなるでしょう。
振出人への支払請求
手形が不渡りになっても、債権が即座に消滅するわけではありません。そのため、割引手形の利用者は振出人に対して支払請求ができます。ただし、不渡りを出した企業から実際に債権を回収するのは容易ではありません。
もちろん、直ちに回収を諦める必要はありません。振出人の他の取引先よりも早く対応すれば、回収できる可能性は高まります。そのため不渡りが判明した時点で、速やかに行動することが重要です。なお手形の支払請求権は、原則として3年で消滅することを認識しておきましょう。
割引手形の仕訳例
10万円の割引手形を手数料1,000円で利用し、代金を当座預金に振り込んでもらった場合は、以下のように仕訳を行います。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
| 当座預金 | 99,000 | 割引手形 | 100,000 |
| 支払利息割引料 | 1,000 |
上記の手形が当初の約束通り、支払期日に支払われた場合は、以下のように仕訳を行います。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
| 割引手形 | 100,000 | 受取手形 | 100,000 |
手形が不渡りになり、当座預金を使って買い戻しを行った場合は、以下の通りに仕訳を行ってください。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
| 不渡手形 | 100,000 | 受取手形 | 100,000 |
| 割引手形 | 100,000 | 当座預金 | 100,000 |
割引手形の貸借対照表での対応
割引手形の会計処理には「評価勘定表」と「対照勘定表」があります。上記の仕訳例は評価勘定法によるものです。この記録方法を選んだ場合、貸借対照表には割引手形を利用した事実が記載されません。
しかし割引手形を利用する際は、先述した通り買い戻し請求のリスクがあります。そのため貸借対照表に、割引手形の利用を記載しておくことが大切です。この場合、割引手形を利用した額は「受取手形割引高」として、受取手形と分けて記録します。こうすれば、保有している手形のうち、割引手形を利用した(買い戻しリスクがある)ものの割合がどれくらいなのかが分かります。
なお、この記録は貸借対照表ではなく帳簿に記載しても問題ありません。その場合は対照勘定表を使い、仕訳は以下の通りです。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
| 当座預金 | 99,000 | 受取手形 | 100,000 |
| 支払利息割引料 | 1,000 | ||
| 手形割引義務見返 | 100,000 | 手形割引義務 | 100,000 |
割引手形とファクタリングとの違い
割引手形と似た仕組みにファクタリングがあります。ファクタリングは、保有している売掛債権をファクタリング会社に売却して、支払期日前に現金を得る資金調達方法です。売掛先が契約に加わらない2社間ファクタリングと、売掛先が契約に関わる3社間ファクタリングがあり、それぞれにメリットとデメリットがあります。
割引手形とファクタリング、どちらも債権を譲渡する点は類似していますが、いくつか相違点があるため見ていきましょう。
対象となる債権
割引手形で現金化できる債権は、手形に限られます。そのため手形を振り出さずに掛取引を行った場合には、利用できません。一方、ファクタリングでは売掛金が対象になるため、請求書しかない場合でも利用可能です。
償還請求権の有無
償還請求権は、債務者が債務を履行しなかったときに、現在の債権者が元の債権者にさかのぼって費用を請求する権利です。割引手形は通常償還請求権あり(リコース)で契約するため、万が一債務者、つまり振出人が支払いを行わなかった場合、利用者は金融期間から買い戻しを求められます。
一方でファクタリングは、償還請求権なし(ノンリコース)で契約するのが一般的です。そのため、万が一債務者が債務を履行しなくても、利用者は買い戻しを求められません。この点ではファクタリングは、利用者にとって有利な仕組みといえます。
手数料率(金利)
割引手形の金利の目安は銀行なら1~5%程度、手形割引専門業者なら5~20%程度とされています。
一方、ファクタリングの手数料率の目安は、2社間ファクタリングなら8〜18%程度、3社間ファクタリングなら2~9%程度です。3社間ファクタリングでは売掛先も契約に関与するため、ファクタリング会社にとって未回収となるリスクが低くなります。その分、手数料率も抑えられている点が特徴です。
なお割引手形は債権の譲渡という形式ですが、銀行法や貸金業法の規制の対象です。そのため、金利は年利20%を超えません。一方でファクタリングは規制の対象外であり、ファクタリング会社が手数料率を自由に決められます。中には高額な手数料率を設定しているファクタリング会社もあるのでご注意ください。
まとめ
割引手形とは、支払期日前の手形を金融機関に譲渡して早期に現金を得るものです。融資と比べて審査に通過しやすく手数料も比較的低い傾向にあるため、資金調達の手段として有用です。一方で不渡りが起きたときには買い戻しが必要になる、金額の分割ができないといったデメリットもあります。
万が一の買い戻しリスクを減らしながら、早期に現金が必要な場合はファクタリングを利用するのも一つの方法です。ファクタリングは原則償還請求権なしで契約するため、万が一不渡りが起きても利用者はリスクを負いません。
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