最終更新日:2019年08月29日
Mentor Capitalです。
今回は、過剰在庫を防ぐ手法について解説したいと思います。
「小売業の売上は在庫に比例する」とよく言われます。
これは小売業が業績を上げようと思えば、売れる在庫を十分に揃えなければ売上を上げられないという事を表した標語です。
しかし、とりあえずたくさんあればどのような在庫でも良いというわけではありません。
一般論として小売業にとってマーチャンダイジングは非常に重要で、マーチャンダイジングの良し悪しが業績に大きな影響を与えます。
しかし、マーチャンダイザーが持つべき視点と経営者や経理担当者が持つべき視点は異なります。
マーチャンダイザーは商品の品揃えてを考えて売上を増やすのが仕事ですが、
経営者は全体最適を実現するためのマーチャンダイジングだけではなく資金繰りを加味した上で在庫の事を考えなければなりません。
また、経営担当者も同様にどうすれば会社が保有している資金で効率的にリスク少なく利益を発生させられるのかを考える必要があります。
本記事では黒字倒産を防ぐために経営者が注意しなければならない過剰在庫とその対策について説明します。
なぜ過剰在庫は経営に悪影響を及ぼすのか?
まずは過剰在庫の危険性について説明します。
冒頭で小売業の売上は在庫に比例するという標語について説明しましたが、経営者は一方で在庫は負債であると考えて経営しなければなりません。
在庫が負債であるとはどういう事でしょうか。
貸借対照表では在庫は資産として扱われます。
また、いくら無駄な在庫を仕入れても損益計算書には損失として計上されません。
貸借対照表を見ても保有していた現金が棚卸資産に変わっただけなので、資産としてはプラスマイナスゼロです。
よって在庫を抱える事のリスクは決算書から見えてきません。
このような理由から在庫は資産の一種として、いざとなれば現金に換金できる安全なものだというイメージを持つかもしれません。
しかし、実際には在庫は抱えているだけで経営に悪影響を与えます。
例えば、店舗や倉庫には家賃がかかっています。
また自社の建物であっても固定資産税や建設費・修繕費などの経費が必要となります。
在庫を抱えるということは在庫を置いておく場所の家賃を支払うという事です。
ですので売れない商品を置き続ける限りその商品のために延々と家賃を支払い続ける事になります。
また、銀行から借り入れを行っている場合、在庫を抱える事で銀行の利子が必要となります。
銀行からの融資で仕入れを行っている場合、100万円の在庫資金はただの100万円分の在庫ではありません。
在庫を維持するために銀行に100万分の在庫の利子を支払わなければならないのです。
仮に100万円の在庫を100万円で売却しても、その100万円を銀行に返済すれば銀行に対する支払い利息を抑える事ができます。
更に、機会損失も発生します。売れない在庫を店舗に陳列している事によって本来売れるはずだった商品を陳列される機会を奪っているからです。
売れない商品を置くくらいなら、売れ筋商品の陳列を増やしたり、新商品がどの位売れるのか試しに陳列してみたりした方が良いでしょう。
会計上は在庫は資産として計上されますが、経営者の考え方として売れない在庫は資産だと思わない方が良いでしょう。
売れない過剰在庫は経営に悪影響を及ぼす負債だと考えて経営することが大事です。
売上は在庫によって作られるという一面もありますので、積極的な仕入れを行いつつも、売れない過剰在庫を持ち続けないというバランス感覚が経営者には求められます。
在庫管理の重要指標である交叉比率
では、在庫の中で過剰在庫となっている商品はどのように見分ければ良いのでしょうか。
もちろん、仕入れてから一向に売れる気配がない商品は過剰在庫だと言えます。
他にも在庫の管理指標として重要なのが交叉比率です。
交叉比率とは商品が収益を上げているかを表す指標で以下の計算式から算出できます。
交叉比率=粗利率×在庫回転数 ちなみに在庫回転数は以下の計算式から算出できます。
在庫回転数=年間の商品売上高÷年間の平均在庫金額 この交叉比率という指標を使えば、在庫が収益に貢献しているかという事がわかります。
例えば、年間売上高200万円、年間の平均在庫金額50万円、粗利率20%の商品Aがあったとします。
この商品の交叉比率は 在庫回転数=200万円÷50万円=4回転 交叉比率=20%×4回転=80% となります。
この指標で比較すると、なかなか売れないけれども実は収益に貢献している商品も発見する事ができます。
例えば上の例の商品より売れにくい商品として 年間売上高150万円、平均在庫金額100万円、粗利率80%の商品Bがあったとします。
この商品の交叉比率は 在庫回転数=150万円÷100万円=1.5回転 交叉比率=80%×1.5回転=120% となります。
商品AとBを比較した時に、在庫回転数だけで比較すると商品Aの方が良い商品だと言えますが、商品Bの方が粗利率が高いので収益への貢献と言う観点から考えると商品Bの方が良い商品だと言えます。
交叉比率がどの値を超えれば優良商品なのかは業種や取扱商品などによっても異なりますが、一般的に交叉比率200%超えの商品は優良商品、
150%程度で良い商品、100%を切るとテコ入れを行うか取り扱いを辞める事を検討する商品だと言われています。
過剰在庫に対する対策
では、過剰対策による黒字倒産のリスクを防ぐためにはどのような事を行えばよいのでしょうか。
まず、過剰在庫に限らず黒字倒産を防ぐためには資金繰り表をきちんとつける必要があります。
黒字倒産は赤字倒産と違い業績が良い時に突発的に発生するので、きちんと資金繰り表をつけて資金が足りなくなりそうなタイミングを見極めなければ防ぐ事はできません。
その上で、過剰在庫を持たないように商品別の収益性管理をきちんと行う必要があります。
代表的な指標は先ほど説明した交叉比率で、交叉比率が100%を超えるように在庫を調整した方が良いでしょう。
ただし、交叉比率は実際に商品を仕入れて陳列してしばらく経たないと算出できないので、商品を仕入れる前にこの商品が売れそうかという判断はバイヤーやマーチャンダイザーの勘や経験が試されます。
最後に過剰在庫を保有してしまった場合ですが、先ほど説明したとおり売れない過剰在庫は持っているだけで経営に悪影響を与える負債ですので、早急に売却することが求められます。
ただし、セール期間外に何の理由もなくたたき売りしてしまえば小売店としてチープな印象を与えるかもしれません。
また、他の値引きしていない商品が高いと思われるかもしれませんのでセールの時に何か理由をつけて売却するのが良いでしょう。
過剰在庫を削減する事によって滞留している資金は減り、貸借対照表の見栄えは良くなりますし、店舗のスペースがあいた事によって他の商品が売れるチャンスが発生します。
最後に
以上のように黒字倒産を発生させる危険のある過剰在庫について説明してきました。
過剰在庫は悪ですがどこからが適正在庫で、どこからが過剰在庫なのかという基準は存在しません。
在庫をどのように持つのかという事はビジネスにおける差別化につながる重要な要素です。
在庫を持つという事はリスクが高いので在庫リスクのない商売を好むという経営者もいますし、
在庫をたくさん保有している事が競争力の源泉になるからあえて在庫を多めに抱えるという経営者もいます。
重要なのは黒字倒産を発生させないように在庫管理をきちんと行うという事です。
在庫管理の方法については過剰在庫の対策の部分で説明した通りですので、常に意識しましょう。
いかがでしたでしょうか?
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