最終更新日:2021年08月06日
Mentor Capitalです。
今回は、手形貸付について解説したいと思います。
多くの経営者や経理担当者の方は、銀行からの融資というと担保や保証人を用意して銀行からお金を借りてくることだとイメージするかもしれませんが、
実は一口に銀行の融資と言っても4パターンの種類があります。
本記事ではそんな銀行の融資4種類について説明した上で、その中の一つの手形貸付という融資方法について詳しく解説します。
知っておきたい4種類の銀行融資の方法
まず、銀行融資を4種類に分解して考える事から始めます。
多くの人が銀行から融資を受けると聞くと、担保や保証人を用意して銀行にお金を借りて、毎月コツコツと返済していくイメージを持たれるかもしれません。
実はこのような銀行からの融資は融資の中でも「証書貸付 」と呼ばれている融資です。
証書融資は金銭消費貸借契約を銀行と事業者が結ぶ事によって、銀行が事業者に対してお金を貸します。
このお金を事業者があらかじめ約束した返済計画通り返済していくのが「証書貸付」です。
世の中のほとんどの「銀行融資」と呼ばれているものは証書貸付の形で銀行から融資を受けているので、融資と言えば証書貸付の事を指していると考えても差し支えありません。
しかし、厳密に言うと、銀行からの融資の方法は4種類あり、「証書貸付」の他に「手形貸付」、「手形割引」、「当座繰越」の4つの融資方法があります。
証書貸付以外のこの3つの融資はいずれも手形・当座預金が絡む融資方法で、日頃手形を利用している会社は知っておかなければならないサービスです。
本記事では「手形貸付」について重点的に説明しますが、手形貸付について覚える際にも、他の2つの手形に関係する融資方法も知っておいた方が良いので簡単に説明します。
まず、「手形」というものについて説明します。
手形とは支払い期日を伸ばせる小切手のようなもので、支払日を決めて支払先に渡して、その支払日以降に支払先が銀行に手形を持っていけば銀行からお金が引き出せるものです。
小切手との違いは支払い期日を伸ばせる事で、だいたい発効後1〜4か月後に期日が来る手形が一般的で長いモノだと1年以上になります。
この手形の特徴なのですが、売掛金などと比較すると換金性が高い特徴があります。
すなわち、売掛金の場合だと、債権の期日が到来しても相手企業が支払ってくれなければ、相手企業と交渉したり、訴訟で回収するしかありません。
しかし手形については銀行に厳しい審査を受けた上で、当座預金口座を開設してからつくれるもので、
手形を振り出した企業が「やっぱりお金がないから支払いたくない」と言い出しても、銀行は手形を換金してくれます。
この様な理由から手形は換金性が高いのです。
ちなみに、もしも手形の支払期日になって手形を保有している企業が手形を現金化しようとした時に、当座預金の残高が足りなくて現金化できなかった場合「不渡り」となります。
この不渡りを半年に2回出せば2年間銀行からの融資を受けられなくなるので、事実上会社は倒産してしまいます。
よって、会社は発行した手形について不渡りにならないように残高を確保しておく必要があります。
このような手形の性質を理解した上で、銀行の融資方法について説明します。
当座繰越
まずは「当座繰越」についてです。先ほど説明したとおり、当座預金に残高が無くなって不渡りを出してしまえば事実上会社は倒産してしまうのですが、
資産を保有している会社でも何かの手違いで当座預金に残高が不足してしまったために倒産するのは不合理です。
このような場合のセーフティーネットとして用意されているのが「当座繰越」です。
当座繰越とは、あらかじめ融資の限度額を決めておき、当座預金からお金が無くなった場合は自動的に、融資枠の範囲内で借り入れができる融資の方法です。
仮に残高が無くなってしまって手形が落ちない状態になっても、当座繰越を利用していれば自動的に借り入れが可能となります。
手形貸付・手形割引
また、先ほど説明したとおり、手形は換金性が高いので手形を利用した資金調達が可能です。それが「手形貸付」と「手形割引」です。
このうち手形割引とはいわゆるファクタリングの様な資金調達の方法で、発行された手形を金融機関に売却する事によって、手形から手数料などを割り引いた金額を調達する融資方法です。
「手形貸付」も「手形割引」も両方手形を利用した資金調達方法なのですが、「手形割引」は手形を売却してしまうので手形の所有権は企業から銀行へ移ります。
これに対して手形を保有したまま融資を受けるのが「手形貸付」です。
手形貸付とは?またそのメリット・デメリット
では、手形貸付とはどの様な融資方法なのでしょうか。
まず前提として手形を振り出せる企業と言うのはある程度信用力がある企業です。
なぜなら、銀行の厳しい審査をクリアしないと手形を振り出せる当座預金口座を開設する事ができないからです。
手形貸付はこの企業の信用力を利用した融資方法です。
融資を受ける企業が手形を発行して、その手形を担保にして銀行から融資を引き出すのが手形貸付です。
この場合、手形割引の場合と異なり、手形の所有権は融資を受ける企業がそのまま持ち続けます。
なぜ、このようにわざわざ銀行に口座を開設して、手形を担保にして、融資を受けるというまわりくどい方法を行うのでしょうか。
メリット
企業側から見た、「証書貸付」ではなく、「手形貸付」を使うメリットは融資のスピード感です。
証書貸付は無担保・無保証任で融資を受ける場合に銀行が審査に慎重になって時間をかけるのは当然ですが、
土地や担保を差し出す場合も土地の評価に時間がかかりますし、保証人を用意する場合も保証人の審査を行いますし、経営者自身が連帯保証を行うのもリスクがあります。
このような証書貸し付けと比較すると手形貸付はスピーディーに融資を受ける事ができます。
手形を担保にすると銀行側の債権回収リスクがとても低くなるからです。
銀行の側から見た時に手形を担保に取ると言う事は、手形を落としてしまうと企業の信用は信用力を著しく落としてしまい最悪の場合倒産に繋がりかねないのです。
その為、企業が支払う可能性が高いので債権回収の期待値が高いと考える事ができますし、
手形を発行できる企業ということに企業の信用力が担保されていると考えている事ができるので審査も簡易的に済ますことができます。
また、手形を担保に入れているので金利も安く抑える事が可能です。
ファクタリングやビジネスローンの手数料や金利と比較しても低コストで資金調達ができるのは当然のことながら、
無担保、無保証任の銀行プロパー融資と比較しても担保を差し出している分、金利が安くなる可能性が高いのです。
ちなみこの金利に関する話として、銀行側からしても手形貸付の方が証書貸付よりもメリットが多いのです。
手形貸付けの金利については前払いが基本なので、貸付金からあらかじめ天引きするのが一般的です。
つまり銀行からすれば利子を前払い一括で回収する事が出来るし、元本は手形によって担保されているので、証書貸付よりも手形貸付の方が回収の手間が少ないのです。
このように、銀行から見ても事業者から見てもメリットがあります。
このように、低金利でスピーディーに資金調達が可能なのが手形貸付のメリットです。
ちなみに、返済方法については定期的に返済を行う分割と手形の期日に返済する一括の返済方法の2パターンが用意されています。
デメリット
一方で手形貸付による融資にはデメリットもあります。
まず多くの企業が挫折する理由が当座預金口座開設の高さです。
先ほどから述べている通り、当座預金口座を開設する為には銀行からの信用を得る事が必要で、
開設したばかりの会社が当座預金口座を開設する事はまず不可能で、事業年度を重ねた上で、
銀行との取引で信頼関係を醸成させる事が必要なので多くの企業は手形貸付に必要な手形を発行できないという事がまず挙げられます。
そして、当座預金口座を開設した上でもいくつかのデメリットはあります。
まず言える事が返済期限が最長でも1年程度で金額についても大規模な融資は期待できないという事です。
証書貸付の場合、5年10年での返済というのもごく普通にあり得ますが、手形の場合は、期日が長い手形でも1年程度が限界なので1年以内に返済を行う必要があります。
また、手形を担保にしているという事は会社の預金残高や信用力に基づいて融資を行うという事なので、土地などの様に売れば確実に現金化できるわけではありません。
このような理由と返済期間が短い事から、銀行側も多額の融資を行えばリスクが高くなるので、事業者としては手形を利用して大規模な資金調達を行う事は期待しない方がよいでしょう。
またきちんと返済できるのなら問題ないのですが、返済できずに担保の手形が銀行に渡り、銀行が手形を現金化しようとした時に、残高が足りなかった場合不渡りが発生します。
もちろん、当座繰越によってこの様なリスクは回避できるのですが、多くの企業がこのような状態に陥った場合は本当に手元資金が枯渇していると考えられます。
半年間に2回、この不渡りが起これば2年間銀行と取引が行えなくなるので倒産すると言われていますが、
実質的には1回の不渡りで銀行は融資を渋ると考えられるので、1回でも不渡りを出してしまえば倒産の可能性が極めて高くなります。
このように手形が落ちなかった場合、実質的に倒産する可能性が高いというのが手形貸付のデメリットです。
以上のように、手形貸付の概要とメリット・デメリットについて説明しましたが、実際に手形貸付による融資を受ける為にはどうすれば良いのか次の章で説明します。
手形貸付の融資の手順
ここでは、手形貸付の融資の手順について説明します。まず、前提として手形を発行する必要があるので、銀行と契約して当座預金口座を開設している必要があります。
今回は当座預金を開設している前提で説明します。
申し込み
まずは銀行の担当営業マンに手形貸付の申し込みをし、融資の額や返済期限などのすり合わせを行います。
その内容を元に審査に必要な書類を作成し、銀行から手形貸付の審査を受けます。
審査通過後
審査を通った場合融資を受けられるのですが、手形貸付の場合担保にする手形を用意する必要があります。
よって、審査で決定した融資金額に基づいた金額で返済期日に合わせた支払期日の手形を銀行に振り出します。
銀行に振り出す事によって銀行から融資が受けられ、後は期日までに約束の金額を返済すれば良いのですが、企業の信用度が上がってくると、手形の書替を利用できるようになります。手形の書替とは、あらかじめ決められた極度枠の中で振り出した手形の金額と同額の手形を再度発行する事によって支払い期日は伸ばす方法です。
なお、必要な書類について利用する金融機関によっても異なりますが、手形貸付なので手形を発行する事が必要ですが、
その他の書類はだいたい銀行融資を受ける際と同じ様な書類が必要となります。なお、手形には収入印紙を貼る必要があるので注意してください。
最期に
以上のように、手形貸付について説明してきました。融資と言うと、どうしても銀行と金銭消費貸借契約を結ぶ「証書貸付」をイメージしてしまいますが、
他にも法人が融資を受ける方法としては「手形割引」「手形貸付」「当座繰越」があり、合わせて4種類の方法があります。
この中でも手形貸付とは、発行した手形を担保にして銀行から融資を受ける資金調達手法です。
企業からすればスピーディーに低金利で資金調達を行う事が可能であり、銀行からすれば審査の手間も債権回収リスクも軽減されるので両者にとってメリットのある融資方法であると言えます。
ただし、手形を振り出すためには当座預金口座を開設するために銀行の厳しい審査を突破する必要があり、
手形を振り出せたとしても大規模な資金調達ができる可能性は低く、返済も基本的に1年以内の融資となります。
また、もしも手形が落ちなかった場合は会社が倒産する確率が高い事にも注意が必要です。
なお、手形貸付を受ける手順ですが基本的には通常の証書貸付と同じような書類が必要となり、「手形」貸付なので、これに加えて手形が必要となります。
手順としては、手形を振り出す前に銀行からの審査を受けて融資を受ける額と返済期日についてすり合わせを行います。
審査が下りた後に審査で通った条件に従って銀行を名宛人として手形を振り出して銀行に渡して融資を受けます。
後は返済期日までにきちんとお金を返済すれば良いだけですし、返済できなければ担保の手形が銀行にわたります。
なお、信用を強化していくと、支払期日を伸ばす、手形の書替が行えるようになります。
いかがでしたでしょうか?
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