運転資金回転期間とは?
最終更新日:2021年08月06日
Mentor Capitalです。
事業運営の中で重要な位置を占めるのが「運転資金」の存在です。
運転資金は血液のように例えられ運転資金が循環していれば経営状態は健全で、在庫や売掛金の形で滞留していると経営状態は不健全だと言われています。
事業運営に悪影響を与える資金の滞留を見つけ改善を行う事が経営者や経理担当者の重大な役割の1つです。
運転資金を把握するために重要な「運転資金回転期間」について詳しく紹介します。
運転資金とは
運転資金回転期間について紹介する前に、まず運転資金について解説します。
経営や事業の運営に必要となる資金を事業資金と呼び、事業資金は下記の2つに分類する事ができます。
- 設備資金=主に初期費用
- 運転資金=事業運営上、継続的に必要となる費用
設備資金は仕入以外で支払われるもので、備品などの購入資金の事です。
具体的には事務所の契約・社用車の購入・オフィスに設置するFAXやパソコンなどの購入費用などが該当します。
一方、仕入れ・従業員の給与・商品の宣伝広告費などが運転資金に該当します。
設備資金と運転資金の分類は、金融機関から融資を受ける際の分類方法に適用されるので違いを理解しておく必要があります。
運転資金は更に使用用途で「経常運転資金」や「増加運転資金」などに分類されます。
経常運転資金とは?
既述の通り運転資金は広義では会社運営にあたって必要な設備資金以外の資金を指しますが、
会計的には「経常運転資金=売上債権(売掛金+受取手形)+棚卸資産-買入債務(買掛金+支払手形)」という計算式で求められ、この値を経常運転資金と言います。
売上債権は売掛金や受取手形のように将来的に資金化される債権を指し、棚卸資産は在庫として社内に滞留する資金を指します。
買入債務は買掛金や支払手形のように将来的に支払いが発生する債務を指します。
この3つを合わせた経常運転資金は企業活動の裏付けがあると言われ、経常運転資金は受取手形や買掛金など用途が明確な資金だと言えるでしょう。
用途が明確な事から、銀行からも融資が受けやすい資金であり、融資元からみれば融資先企業が倒産した場合でも売掛金や受取手形、
棚卸資産の現金化によって債権回収の裏付けがあり融資がしやすいと考えられます。
このような背景から銀行からの融資で資金調達を行う際に、経常運転資金をベースに交渉すると融資が実現しやすいため自社に必要な経常運転資金を把握しておく事が重要です。
運転資金回転期間とは?
運転資金が「事業運営上、継続的に必要となる費用」である事は既に紹介しました。
仮に運転資金が不足すると「仕入れができない」や「従業員に給与を支払えない」などの問題の発生に繋がります。
このため、常に必要な運転資金を把握する事が事業を継続する上で非常に重要なポイントとなります。
自社に必要な運転資金を正確に把握するために必要となるのが「運転資金回転期間」とその算出式です。
運転資金回転期間は「売掛債権を含めた売上げの回収期間」を表します。
運転資金回転期間の種類や算出方法
既に紹介した通り運転資金(経常運転資金)の算出は、通常「経常運転資金=売上債権(売掛金+受取手形)+棚卸資産-買入債務(買掛金+支払手形)」で求めます。
この算出方法を「在高方式」と呼びますが、これはB/S(貸借対照表)上で計算したものでありかなり大雑把だと言えるでしょう。
より正確に把握するためには、運転資金回転期間を用いた計算が必要となります。
運転資金回転期間を用いた算出方法は求めたい指標によっていくつか種類がありますので、指標ごとの計算法を紹介します。
売上債権回転期間
商品を販売してから売上げを回収するまでの期間を、日数や月単位で正確に把握できるのが売上債権回転期間です。
また、売上の中の売上債権の比率である売上債権回転率の計算式も合わせて紹介します。
売上債権回転率が低いほど、売上債権の残高が少ないという事になります。
計算に用いる日数と月単位は使用条件によって変更できます。
- 売上債権回転期間=(売掛金+受取手形)/{年間売上高/365日(12ヵ月)}
- 売上債権回転率=年間売上高/(売掛金+受取手形)
仮に売上債権200万円に対して年間の売上が2,000万円の場合は
売上債権回転期間=200万円÷(2,000万円÷365日)=36.5日
となり、36.5日が売掛債権回転期間となります。
棚卸資産回転期間
棚卸回転期間は、商品の仕入れから売却までの期間を示すもので別名「在庫回転期間」とも呼ばれます。
こちらも合わせて回転率の求め方を紹介します。棚卸資産回転率の値が高いほど在庫が上手く回転しています。
- 棚卸資産回転期間=棚卸資産/{年間売上原価/365日(12ヵ月)}
- 棚卸資産回転率=年間売上原価/棚卸資産
仮に棚卸資産400万円に対して年間の売上が2,000万円の場合は
棚卸資産回転期間=400万円÷(2,000万円÷365日)=73.0日
となり、73.0日が棚卸資産回転期間となります。
買入債務回転期間(支払債務回転期間)
商品の仕入れから支払いまでの期間を示すものが買入債務回転期間で、「支払債務回転期間」とも呼ばれます。
買入債務回転率は数値が高いほど買掛金や支払手形の残高が少ない事を示します。
- 買入債務回転期間=(買掛金+支払手形+受取手形の譲渡高)/{年間売上原価/365日(12ヵ月)}
- 買入債務回転率=売上・仕入原価/(買掛金+支払手形+受取手形の譲渡高)
仮に買入債務が250万円に対して年間の売上が2,000万円の場合は
買入債務回転期間=250万円÷(2,000万円÷365日)=45.6日
となり、45.6日が買入債務回転期間となります。
<運転資金回転期間から経常運転資金を算出する>
繰り返しになりますが、上記で計算した3つの回転期間を「売上債権回転期間+棚卸資産回転期間-買入債務回転期間」という風に組み合わせると運転資金回転期間という指標になります。
上記の例では、
36.5日+73.0日-45.6日=63.9日
となり、63.9日が運転資金回転期間となります。
そして、「1日当たりの売上×運転資金回転期間」を計算すれば必要な運転資金が算出できます。
上記の例では、
(2,000万円÷365日)×63.9日=350.1万円
となり、350.1万円が必要な経常運転資金という事になります。
まとめると以下の式で経常運転資金を算出する事ができます。
経常運転資金=1日当たり平均売上×(売上債権回転期間+棚卸資産回転期間-買入債務回転期間)
運転資金回転期間の見方や考え方
各運転資金回転期間に対する考え方は上記で少し触れました。
実際に運転資金回転期間を計算した方であれば「棚卸資産回転期間が短いほど、在庫が少ないから良い」「売上債務回転期間は短ければ短いほど良い」と考えるのではないでしょうか。
これら2つの考え方は間違いではありません。
しかし買入資金回転期間については注意が必要です。
買入債務回転期間は、実際に支払いを行うまで相手方に待ってもらっている状態と言えます。
この期間が長い場合、銀行などの融資側が「資金が足りず、支払いを待ってもらっている」「仕入れ先や下請けに無理を強いている」と捉えるケースがあります。
逆に短ければ資金面での負担が大きくなり好ましい状況とは言えません。
また、各運転資金回転期間のみで考えるのではなく、例えば売上債務回転期間と買入債務回転期間のように他の指標と比較する事でより真価を発揮します。
売上債務回転期間よりも買入債務回転期間が長い場合は、仕入に関わる費用を全て売上で賄えている事を示します。
事業運営が安定し余程の事が無い限り運転資金の調達は不要でしょう。
逆に売上げ債務回転期間よりも買入債務回転期間が短い場合は資金不足に陥っていますから、早急に手を打たないと事業の継続が困難な状態に陥る事が予想されます。
単体あるいは比較で考える場合どちらにしても、中小企業庁などが発表している業種別の平均値をチェックし、自社の運転資金回転期間や各回転率と比較するのが良いでしょう。
様々なパターンの運転資金を算出する
回転期間方式に基づく経常運転資金の計算方法を紹介しましたが、この計算方法は銀行との交渉で運転資金の算出根拠を示す際に非常に効果的だと言えます。
経常運転資金の計算も大切ですが、一度事業が始まり追加の運転資金が必要となった場合、追加の運転資金が必要な理由やどの位必要なのかについて説明する必要があります。
また、赤字による資金不足の場合は説明しやすいのですが、事業拡大により運転資金が必要になった場合や、
取引先との決済条件が変わる事で追加の運転資金が必要になった場合は説明に困るケースもあるでしょう。
その際には経常運転資金の算出方法を少し工夫すれば対応できます。
例えば、事業が拡大すれば多くの運転資金が必要となりますが、売上の増加に伴いどの位の運転資金が必要となるのかは以下の式で算出可能です。
増加運転資金=1日当たり売上増加金額×(売上債権回転期間+棚卸資産回転期間-買入債務回転期間)
他にも取引先との決済で、買掛金の支払いサイクルや売掛金の回収サイクルが変化した場合にも運転資金が必要となります。
この時にどの位の余分な運転資金が必要になるのかについては
増加運転資金=1日当たり平均売上×(売上債権回転期間延長分+棚卸資産回転期間延長分-買入債務回転期間延長分)
で算出できます。このように回転期間方式による経常運転資金の算出方法を用いて、どの位の資金が必要なのか根拠を持った交渉が行えます。
運転資金が不足した場合の対処法は?
運転資金回転率を把握している場合でも、突発的に資金不足に陥る事は珍しくありません。
典型的な例として急激に売上げが増加し売掛金の回収が追い付かなくなる場合などが挙げられます。
このような場合は、金融機関からの融資などで早急に運転資金調達を行う必要があります。
- 銀行や日本政策金融公庫からの融資
- 消費者金融などのビジネスローン
- 手形割引や不動産担保ローン
売掛金回収による運転資金の確保が難しい場合は、上記の方法で資金調達が行えます。
銀行を利用した融資は低金利でメリットも多いのですが、融資までに平均2週間ほどの期間が必要となり、日本政策金融公庫の場合は更に期間が長いでしょう。
消費者金融などのビジネスローン、手形割引や不動産担保ローンは短期間で融資を受けられるのがメリットですが、高金利で返済不可能となった場合のリスクは低くありません。
自社の運転資金を常時しっかりと把握し、融資を受けるべきか否かを検討しておく事が重要だと言えます。
【まとめ】運転資金回転期間
回転期間方式に基づいた運転資金の算出方法を紹介しました。この方法で運転資金を管理するメリットは2つあります。
1つは会社の経営に必要な運転資金を知る事は経営者や経理担当者が資金繰りをコントロールするために役立つ事、
もう1つは銀行と融資交渉を行う上でも根拠に基づいた融資交渉が行えるようになる事です。
運転資金は会社の血液だと言われるように、運転資金を循環させて収益を生み出す事が重要ですが、時として資金は滞留します。
ある時は在庫として倉庫に眠っているかもしれませんし、ある時は回収できない売掛金として残っているかもしれません。
平均的な数値と比較する事によって自社のどのような部分で資金が滞留しているかという事を突き止める事ができます。
このような理由から回転期間というのは非常に重要な指標となります。
後者について経常運転資金は商売上の裏付けがある資金なので銀行側も融資しやすい資金需要ではありますが、
なぜどの位必要なのかについては根拠を持って説明する必要があり、その根拠としてこの計算方法は有力です。
いかがでしたでしょうか?
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